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最高裁判所第一小法廷 昭和57年(オ)491号 判決

上告人

熊野舖道工業株式会社

右代表者

熊野清一

右訴訟代理人

甲斐

被上告人

株式会社岩室工務店

右代表者

岩室義信

右訴訟代理人

中園勝人

緒方研一

主文

原判決を破棄する。

主位的請求についての本件控訴を棄却する。

予備的請求につき本件を福岡高等裁判所に差し戻す。

第一、二項についての控訴費用及び上告費用は、被上告人の負担とする。

理由

上告代理人甲斐〓の上告理由一及び二について

原審が適法に確定した事実関係のもとにおいては、本件営業所が商法四二条一項本文にいう支店にあたり、また、手形の振出、裏書等の手形行為が本件営業所の営業範囲内の行為であるとした原審の判断は、いずれも正当として是認することができる。論旨は、原審の認定にそわない事実又は独自の見解を前提として、原判決を論難するものにすぎず、いずれも採用することができない。

同三及び四について

原審は、(一)(1) 上告人の常務取締役であり昭和四八年五月から本件営業所長に就任した熊野正は、同所長名義で、道路舗装工事の請負契約の締結及び履行並びに小切手振出等をする権限を有していたが、上告人の内部規程によつて手形の振出、裏書等手形行為は本店で統轄するものと定められていたため、その権限を有していなかつた、(2) 熊野は、上告人の許諾のもとに、昭和五三年八月ころからは上告人と雇傭関係のない訴外桂義信に対し、本件営業所長の前記権限を包括的に委任し、これに基づき、桂は、所長代理の肩書で本件営業所に常駐し、営業所長印等を使用し、同所長名義で、主として官公庁関係の請負工事の入札参加、請負契約の締結等本件営業所長の権限に属する業務一切を処理していた、(3) ところが、桂は、自分が経営の実権を握つていた第一審被告三信舗道株式会社(以下「三信舗道」という。)等に資金援助をする必要に迫られ、昭和五四年七月ころから三信舗道に振り出させた約束手形に本件営業所長名義の裏書を偽造し、これを割り引いて資金を作るようになつた、(4) 本件手形は、桂が、同年八月下旬ころ、右と同様の目的で三信舗道に振り出させ、第一裏書人欄に本件営業所長熊野正名義で裏書を偽造し(以下この裏書を「本件裏書」という。)、第二裏書人欄に自分名義の裏書をし、いずれも被裏書人欄を白地とし、取引先の青柳建設株式会社(以下「青柳建設」という。)の代表者に割引を依頼して本件手形を手渡したところ、同代表者は、更に、被上告人の代表者に本件手形の割引を依頼し、同代表者は、本件裏書が正当にされたものと信じて本件手形の譲渡を受け、割引金一八五万円を青柳建設の代表者に交付し、同代表者は、そのうち一七一万余円を桂に送金した、(5) 被上告人は本件手形に第三裏書をし訴外株式会社平塚硝子店にこれを交付し、同訴外会社が本件手形を満期に支払場所に呈示したが、支払を拒絶されたので、被上告人は、本件手形を受け戻し、現にこれを所持している、との事実を確定したうえ、(二) 上告人が被上告人に対し、本件裏書に基づき担保責任を負うべき理由として、上告人は、桂が本件営業所長名義でした本件裏書についても、同所長自身がした場合と同様に、これが権限外の行為であることを善意の第三者に対抗することができない筋合であるところ、被上告人の代表者が本件裏書の真否につき善意であつたから、上告人は右担保責任を負うべきであるとの判断を示し、青柳建設の代表者は本件裏書が桂の偽造に係るものであることを知つていたと認められなくもないが、この事実は上告人の右担保責任の存否を左右するものではなく、被上告人の代表者が青柳建設の右知情につき悪意で本件手形を取得したことについては何らの主張・立証がないとの理由を付加し、(三) 結局、被上告人の主位的請求を全部認容すべきであるとし、これを棄却した第一審判決を取り消し、右請求を認容している。

ところで、記録によると、被上告人が、本件裏書につき上告人が被上告人に対して担保責任を負うべき根拠として主張するところは、本件裏書が上告人によつて適法にされたものであるとするほか、桂の本件裏書につき、商法四二条若しくは四三条の適用又は民法一一〇条の類推適用があるというものであることが明らかであるところ、原判決は、その理由の法律上の根拠が必ずしも明らかではないが、桂が、本件営業所につき、商法四二条一項本文にいう支配人と同一の権限を有するものと看做されるいわゆる表見支配人(以下「表見支配人」ともいう。)に該当するとし、同条に基づき、上告人は被上告人に対し、本件裏書につき担保責任を負うべきであると判断したものと解される。

しかしながら、原審の右判断は、到底首肯することができない。その理由は、次のとおりである。(一) 原審の確定したところによると、桂は、上告人と雇傭関係がなく、また、本件営業所の「所長代理」の肩書が付されていたにとどまるというのであるから、桂は、上告人の使用人ということはできないし、また、本件営業所の主任者たることを示す名称が付されていたともいえないから、桂が同条一項本文により本件営業所の支配人と同一の権限を有するものと看做されるべきであると解することはできない。また、原審が確定した前示の事実関係のもとにおいては、桂を本件営業所の支配人に準ずべきであると解する余地もない。したがつて、原判決の前示判断は、商法四二条一項本文の解釈適用を誤つた違法なものというべきである。(二) さらに、同条二項にいう相手方等にいわゆる表見代理が成立しうる第三者は、当該取引の直接の相手方に限られるものであり、手形行為の場合には、この直接の相手方は、手形上の記載によつて形式的に判断されるべきものではなく、実質的な取引の相手方をいうものと解すべきであるうえ、記録によると、被上告人は、原審において、本件裏書に基づき本件手形を取得した相手方、すなわち桂に対し本件手形の割引をした者(以下「本件裏書の相手方」という。)は青柳建設であり、被上告人は青柳建設から本件手形上の権利の譲渡を受けたものである旨主張していたことが明らかであるにもかかわらず、原判決は、青柳建設の代表者は本件裏書が桂の偽造に係るものであることを知つていたと認められなくはないが、被上告人の代表者が本件裏書の真否につき善意で本件手形を取得した以上、上告人は被上告人に対し、本件裏書につき担保責任を負うべきであるとしているが、この判断は、同条二項にいう相手方又は表見代理が成立しうる第三者についての解釈適用を誤つた違法なものであるか、又は論旨指摘の弁論主義に違背する違法なものであることが明らかである。そして、右(一)及び(二)の違法は、いずれも原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、この違法をいう論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。しかして、本件裏書が上告人の使用人でない桂の偽造に係るものであり、被上告人において本件裏書の相手方であると主張する青柳建設が右偽造について悪意である等の原審が確定した前示の事実関係のもとにおいては、被上告人の主位的請求は、これを認容しうる余地がなく、棄却を免れないことが明らかであるから、右請求を棄却した第一審判決は正当というべきであり、原審としては、主位的請求に対する本件控訴を棄却し、予備的請求に対する本件控訴の当否について審理判断すべきであつたというべきである。したがつて、原判決を破棄し、主位的請求に対する本件控訴を棄却し、予備的請求に対する本件控訴については、審理を尽くさせる必要があるから、本件を原審に差し戻すこととする。

よつて、民訴法四〇七条一項、四〇八条一号、三九六条、三八四条一項、九六条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(和田誠一 藤﨑萬里 谷口正孝 角田禮次郎)

上告代理人甲斐〓の上告理由

原判決には判決に影響を及ぼすこと明らかな法令の違背がある。

本件約束手形は、訴外桂義信が、事実上の管理権限を有する三信舗道株式会社名で振出して、勝手に受取人欄に上告人会社福岡営業所と記載し、更に第一裏書欄に上告人会社福岡営業所長の記名及び営業所長印を盗用して第一裏書を偽造完成した上で、自己即ち桂義信を第一被裏書人として訴外青柳建設株式会社に交付し、それが被上告人に渡つたものである。

一、本件手形は、その受取人及び第一裏書人欄に桂義信が上告人会社福岡営業所長の記名及び印を盗用作成したものであるが、通常会社の営業所長名でした手形行為が、直ちに会社を代表する手形行為と云えるか否かを検討しなければならない。

巷間所謂「○○営業所」と言う店舗と、商法上の「営業所」とは概念を異にする。

前者は営業所店舗を示す固有名詞であり、後者は本店又は支店等営業の本拠地を表わす包括的抽象名詞である。

「上告会社福岡営業所」が右後者の如き「支店としての実質を備えていた」(判決書26頁)(以下頁数のみを記載した場合判決書の頁数を示す)か否かについて原判決は、

1 建設業法等に定める「支店に準ずる営業所」として建設大臣に届け出て許可を得ていた。

2 本件営業所が道路舗装に関する限り本店から離れて独自に請負契約を締結し、これを履行する権限を有していた。

この二点を理由として(25頁〜26頁)支店としての実質を具えていたことは明らかであると認定している。

1 然し建設業法等に定める「支店に準ずる営業所」として建設大臣に届け出ていたことを理由として、直ちにこれが商法に言う支店としての実質を具えていたと認定することは、建設業法の解釈を誤つたものである。

建設業法第三条及び同法施行令第一条は、本店又は支店若しくは政令で定める営業所は「常時建設工事の請負契約を締結する事務所とする。」べきを定めたに過ぎないもので、請負契約の成立を確実にし、争を防止する為の立法技術上の問題であり、この事と現実に本件営業所が支店としての実質を有するか否かと言う事とは別問題である。

2 又、本件営業所が本店から離れて独自に請負契約を締結し、これを履行する権限を有していた(25頁)と認定しているが、その根拠理由として挙げている点は、

(イ) 本件営業所は、昭和五二年に入つてから受注工事量が減少し、従業員が逐次退職して女子事務員一名になつた(20頁〜21頁)

(ロ) 桂に対し、主として官公庁関係の請負工事の入札事務を処理して欲しいと依頼し、桂が入札事務等に従事するようになつたが、落札した工事は落札価格の九六パーセントで合同建設(桂の経営する建設業の商号)等に下請けさせる取決めがなされた。(21頁)

原判決は「下請契約の締結については、業者の選択及び発注金額等すべて桂に一任されていた」(21頁)と認定するが、この孫請関係は桂自身の本業であり、上告人会社は桂の合同建設から更に孫請けする孫請業者との関係はない。

(ハ) 桂は昭和五四年一月頃建設業者の藤田組を名目上営業所の直営班として、自らその経営に関与するようになつた。等である。

然し所謂営業所が実質上商法の営業所としての実態を備えているか否かは、その営業所の規模・構成人員・経理事務・帳簿備付・金銭取扱の態様・活動状況等から見た営業に関する独立性の有無程度によつて定められるべき処、右(イ)〜(ハ)の理由等だけからしては、本件営業所が本店から離れて独自に請負契約を締結して之を履行する権限を有していて独立店舗性を有していたと認定することは飛躍し過ぎる。

返えつて原判決も認定するように、

(イ) 従業員は女子事務員一名のみであつた。(21頁)

(ロ) 手形の振出裏書等手形行為は本店で統轄するものと定められ、右営業所長にはその権限を与えられていなかつた。(20頁)

(ハ) 会社経理は本店が統轄するため、桂が右利益を直接取得するのではなく、本店から桂に対し毎決算期末に精算することになつていた(22頁)ものであるし、本件営業所は本店の決裁も待たずに勝手に(独自に)入札や契約を締結していたものではない。

等から見るとき、本件営業所は商法上で言うような本店でも又支店でもなく唯単に請負契約締結権のみを特別に与えられた巷間所謂「営業所」であるに過ぎず、それ以上の商法上の営業所に当たるような組織規模を具えてはいなかつたものである。

然るに、これ等の点を無視して、本件営業所が商法に言う本店又は支店等に当たるとしたことは理由不備又は法律の解釈を誤つた違法がある。

二、次に原審判決は、「手形の振出裏書等手形行為は、一般的な取引手段として営利会社である被控訴人の本件営業所の営業範囲内の行為と解すべきである。」(26頁)として、営業所長のなした手形行為も、外部に対しては当然に会社に責任を生ずるとするが、

(一) 手形行為が厳格な要式行為であり、会社を代表する者が署(記)名押印してこそ、会社に手形責任が発生するものである。

会社代表者以外の者のなした手形行為については、特に手形行為の授権を明示している等表見代理の成立する場合にのみ例外的に会社に責任が生ずるものである。

従つて営業所長の肩書で手形行為をした場合、その手形行為が営業所長の営業範囲内の行為と誰もが信用する様な特別な事情が存する場合にのみ会社に責任が生ずるのであるから、この様な特別事情を相手方が知つていたことの判断もなくして会社責任を認めることは、社会常識に反する認定と言わねばならない。

「営業所長」名儀の手形署(記)名自体からして受領者の害意は推定されるものと信ずる。

(二) 又、建設業の営業所は建設業法により特に契約締結権を与えられているものと看做されるけれども、これは建設請負契約上の特例に過ぎず、営業所長に特に手形振出裏書権限までも授与していることの表示を受けた者(第三者)(民法第一〇九条)に対して、営業所長名で手形行為(振出裏書)したのならば格別、通常では特に個別的に委任でもない限り営業所長には手形行為の権限がないことは公知の常識である。

このような者の署名捺印による手形については、資格の確認をするのが常識であり、それをしないのは危険を覚悟(害意を推定される)の取得と言わねばならない。

(三) 更に原審判決は、「手形の振出、裏書等手形行為は、一般的な取引手段として、営利会社である本件営業所の営業範囲内の行為と解すべきである」(26頁)とするが、この論理で行けば巷間所謂営業所長は全べて手形行為権限が営業範囲内の行為と解せられることになり、手形の厳格なる要式性、従つて之による信頼性は失われる結果になるであろう。

営業行為と厳格な要式を必要とする手形権限とは峻別しなければならない(最高裁昭和三九年(オ)第八一五号昭和四二年六月六日第三小法廷判決)ことは社会の常識であると信ずる。

従つて原審判決が営業所長には、取引手段として当然的に手形行為の授権があつたと認定していることは、本店又は支店の営業主任者の権限に関する商法第四十二条の解釈適用を誤つたか、又は不当に拡張解釈した違法がある。

三、原審判決は「本件営業所長としての権限を包括的に委任された桂が本件営業所長名義でなした手形行為(本件裏書)も、同所長自身がなした場合と同様に……善意の第三者に対抗することができない筋合である……」(27頁)と認定している。

然し反面において「本件営業所長には元来会社を代表して手形行為をする権限のない……」(20頁)ことを認定しているものである。

そうすると、本件営業所長の印鑑を盗用した桂義信は営業所長の更に代理であるに拘わらず、この桂について当然的に手形行為の代理権が発生するものと認定することは理由不備乃至理由齟齬の違法があるものと言わねばならない。

又この点について、被上告人には、上告人会社営業所長に手形行為の代理権があること、並びに桂にも営業所長から手形行為の代理権が授与されていること、又はこれ等両要件についてその存在を信ずるにつき正当の理由のあることについて主張立証させ審理を尽くすべきであるのに、これ等の点を等閑に付して、(この場合、本件裏書の真否に対する青柳建設代表者の認識は問題とする必要がない)として(27頁)被上告人の主張立証を待たず一足飛びに表見代理責任を認定したことは、民法第一一〇条の解釈を誤まり、又理由不備乃至理由齟齬の違法があるものと云わねばならない。

四、本件手形裏書行為は訴外桂義信が上告人会社福岡営業所所長の印鑑を盗用して偽造した行為であることは原審判決も之を認定している処である。(24頁)

本件手形の裏書は上告人会社福岡営業所長の行為ではない。

従つて桂義信の行為が民法第一一〇条によつて表見代理としての要件を具えているか否かを検討しなければならない。

(一) この為には先ず本件偽造手形の「第三者」とか「相手方」は誰であるかを確定せねばならない処であるが、

(イ) 甲四号証桂の証言の尋問番号三二、三三によれば、

「最初私はこの手形に熊野舗道の裏書をせずに……青柳社長に割引を頼んだところ、青柳社長は三信舗道振出しの手形では危いと思つたのか、私に熊野舗道の裏書をすれば割つてあげると答えました。

そこで……熊野舗道の裏書を勝手に書き入れ……青柳建設の事務所まで行きました。そこで私は青柳社長に対し……この手形を割つてほしいと頼んだところ青柳社長はこれを承諾してくれました。

その後青柳社長は現金一七一万二、七四〇円を私の銀行口座……に振込送金してくれました。」

又、同尋問番号三五、によれば、

「私としては割引は青柳社長から受けたものだと考えています。と言うのは青柳社長がこの手形の割引金の中から平出務に対する貸金二〇万円を差し引いているからです。」

(ロ) 又、昭和五六年一二月三日付被上告人(控訴人)準備書面にすれば、

(1) 「控訴人が訴外青柳建設株式会社の求めにより、本件手形の割引をした際、右当事者間においては手形買戻しの特約は存しなかつた。

従つて控訴人は青柳建設株式会社に対して本件手形の買戻請求権を有しない。」

(2) 控訴人(被上告人)は本件手形の取得により、青柳建設株式会社が被控訴人(上告人)に対して有する損害賠償請求権とは無関係に……」

と主張している。

これ等から見て本件は受取人白地で流通に於かれたもので手形上には被裏書人の記載はないが実質的取引関係を考慮に入れて決する(最高裁昭和四五年三月二六日第一小法廷)とすれば第三者は青柳建設と見るべきである。

そうであるとすれば、原審判決の理由中に、

「桂が……手形行為をなす権限を濫用して、専ら自己の利益を図る目的で本件裏書をなし、右濫用の事実を青柳建設の代表者が知つていたと認められなくもない。」(27頁〜28頁)

として青柳建設株式会社の善意取得を否定しているのであるから、その後の承継取得者たる被上告人は表見代理を主張するに由なきものと言わねばならない。

(二) 又、仮に本件手形について第三者を被上告人であるとしても、その表見代理の成否につき、原審判決は、「控訴人(原告)の代表者が青柳建設の右知情につき悪意で本件手形を取得したことについては何等の主張立証もない(28頁)」

と認定しているが、

本件と同様の事案について最高裁判所は、

「(……無権代理人某の代理権を信じて本件手形を取得したような事情がある場合)においては……民法第一一〇条に言う第三者に手形の第三取得者が含まれないと解すると否とにかかわらず……盗用者からの手形受取人(被裏書人)が盗用者に本件手形の振出権限があると信じたことについて正当の理由があるときは、その本人である者は振出人として手形上の責任を負うものと解するのが相当である」

としている。(最高裁昭和四一年(オ)第五〇四号、昭和四五年三月二六日第一小法廷判決)

又民法第一一〇条によれば「第三者が其権限ありと信ずべき正当の理由を有せしときは」本人が責に任ずることを定めている。

従って本件営業所長や営業所長代理に手形行為をなす権限ありと信ずべき正当理由があつたことの立証責任は被上告人(原告)にある。

(三) 又、本件の如き会社を代表する代表取締役名儀で振出・裏書されていない手形については当然には会社に責任は生じないものである。

その上に原判決は、

「桂が本件営業所長名義でなした手形行為(本件裏書)も同所長自身がなした場合と同様に……善意の第三者に対抗することができない筋合である……」(27頁)と認定しているが、元来会社を代表して手形行為をする権限のない営業所長(20頁)の、又その部下の所長代理(と称する者)に当然的に手形行為の代理権が発生する謂はない。

従つて、この様な手形を取得した者は、会社に責任があること、手形行為者に権限があることを主張立証しなければならない。

即ち具体的に、

(イ) 本件営業所が商法上の支店に該当する実質を具えていたことを知つていたこと。

(ロ) 本件に関する法律(建設業法)の擬制条項を知つていたこと。

(ハ) 本件営業所長が熊野正であり、同人又はその営業所長代理と称する桂義信に手形振出権限があると信じていたこと。

(ニ) 又は本件手形について表見代理を信ずる正当事由があること。

等について、手形取得者たる被上告人は主張立証しなければならないし、且つ判決に於いても右事実があることを理由付けしなければならない。

然るにこれ等の点を無視した原判決は、前記各最高裁判所の判例に違反するのみならず、本件手形裏書の表見代理について民法第一一〇条に関してその立証責任に関する法令の解釈を誤まり、且つ権限を信ずるにつき正当事由の存否に関する判断について理由不備の違法があるものと言わねばならない。

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